2、ヒプノセラピー 〜自分の中の自分の知らない『物語』〜
- 渡邊真理乃
- 2022年9月2日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年7月18日
前回の投稿で、ヒプノセラピーについて詳しく説明しましたが、簡潔に言い表すと、
ー自分の中に、自分の知らない自分自身の『物語』があること、しかもそれが示唆に富み、現在の人生にとって意味深い気づきや学びを与えてくれるものであること。その『物語』を、催眠状態で『体験』することによって自分自身を理解するー
それがヒプノセラピーと言えるのではないかと考えています。
さて、自分の無意識(潜在意識)の中にある『物語』を催眠状態で引き出すことに、いったいどんな意味があるのでしょうか。
ヒプノセラピー個人セッションの実際の様子とその効果について、具体的にお話した方が理解しやすいと思いますので、まずは私がクライエントだった時のケースを紹介したいと思います。
20代の頃、夜中にトイレで起きた時に、『父が死んだら1人でどうやって生きて行こう。』と絶望しながら廊下をとぼとぼ歩く、という状態が続いていました。真っ暗な廊下を1人、全く希望のない絶望した状態で、救いも癒しも感じられないまま、孤独を抱えて歩いていました。
しかし実際のところ、全く父親は死にそうではありません。それに、もし父が亡くなることがあっても生活できなくなる状況でもなく、母も姉妹も親戚も友人もいるので1人になることはありません。もちろんその事実は頭では理解していましたし、そこまで絶望する必要はないと自分でも思っていましたが、どうしてもその精神状態から抜け出せませんでした。
また当時は人生全体が絶望感に支配されているような感覚もあり、生きることに真剣になれないこと、何事にも本気になれないことが悩みでした。幼少期からを振り返っても思い当たるようなトラウマもなく、なぜ自分がそのような状態なのか分からないまま年月が経っていました。
このままじゃいけない、なんとかしなきゃ。そんな思いを抱えていてもどうしたら良いのか分からず、葛藤を抱えながら生きていた時に出会ったのが、ヒプノセラピーでした。ヒプノセラピーでは催眠状態によって、自分の抱えている問題の根本的な原因や解決法を探ることができる。セラピストさんによって答えを与えてもらったり、癒してもらうのではなく、自分自身の心の奥深くからそれらを引き出す。という点に惹かれました。
今の自分のこの不可解な状態が理解できるかもしれない、変わるための突破口が見つかるかもしれないという思いで、ヒプノセラピーのセッションを受けてみることにしました。
理解できない絶望感を抱えた私がヒプノセラピーのセッションで体験したのは、今まで全く考えたことのない、想像したこともない、思い付くことさえできないような内容でした。
催眠状態で私は、少し古い時代の日本に生まれた5、6歳の男の子になっていました。お父さんと貧しい二人暮らし、でも日々の生活に満足していたようです。
ところがある日、村で何か事件が起こった折りに、父と私は村人達に追われ、逃げていたのですが、とうとう追い付かれてしまいます。物陰から隠れてこっそり見ていた私の目の前で、父が皆によってたかって農機具で殺されます。
私は催眠状態で非常に激しく泣きながら、お父さんがいない、手も足も、顔も、ぐちゃぐちゃになったから、お父さんがいない、どうしたらいいかわからない、とその男の子になりきって叫んでいました。
セラピーでは、その人生の死まで経験して、死後の振り返り、今生との繋がり等、しっかりと時間をかけて丁寧に見てゆきます。
特に胸に刻まれたのは、その男の子の激しい感情でした。今まで感じたことのない深い悲しみを心の底から全身で感じ、心ゆくまで泣きじゃくったあの小さな男の子を、まさに自分自身として体験し、振り返り、気づき、学んだことで、胸の深いところで受け入れた。そのような感覚がありありと心全体に広がり、セッションが終わった時は非常にすっきりとした心持ちで、生まれ変わったような気持ちが生じたことを覚えています。
セッションによって起こった変化を言葉にしてみると、
まず、『父が死んだらどうやって一人で生きていこう…』と、夜中に絶望しながら廊下をとぼとぼ歩く、ということは一切なくなりました。あの、自分ではどうしようもないと思っていた恐怖も絶望も、感じなくなりました。
代わりに、地に足がついたような感覚、私は私でいていいんだ、大丈夫なんだ、という安堵の気持ち、深い安心感が生じました。
言葉にするのが難しいのですが、内的な感覚としては、人生が変わったと言える程に、大きな出来事でした。
なぜこのような変化が起こったのか、本当のところは分かりません。
おそらくですが、今まで見ないようにして閉まいこんでいた嫌なものをおそるおそる開けてみたら、そこに大切なものがあった、最も怖れ避けていたものが実は自分の半身だったと、そのことに気づいて愛しいと思えた、というようなことが起こったのではないかと感じています。
その結果として自然に、考え方や生き方がぐっと前向きになり、以前は絶望しかなかったのに、希望しか感じなくなりました。
考えうるどんな最悪なことが起こっても、そこから学べる、どんなに時間がかかっても、ちゃんと立ち上がれると、催眠状態で体験したからかもしれません。
まさに『体験』の世界ですので、説明するのがなかなかに難しいですが、前回の投稿でも説明したように、ヒプノセラピーはあくまで心理療法なので、クライエントさんの症状や抱えている問題が良い方向へ向かうこと、本来のその人らしく生き生きと生きれるように癒されること、それが第一であり、その為に使えるものはなんでも使いましょう、というスタンスが基本となっています。
自分の抱える疑問の答えも、苦しみの突破口も、悲しみの癒しへの道も、自分自身の心の奥深くにある。外に求めなくても、自分の内側から引き出すことができる。それを実感できるのが、ヒプノセラピーと感じています。
セラピールーム アウロラ
渡邊 真理乃

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